どこか寂しさを覚える『濹東綺譚』

濹東とは隅田川の東の地域を指し、綺譚は興味ある、不思議な物語を指す。
関東大震災後、西洋化してゆく東京に住む不器用な男のお話です。

主人公の大江は小説家。
ある日江戸情緒あふれる玉の井付近を散策していると、雨が降り始め、
大江が傘をさすと突然ひとりの女性が入ってくる。
彼女の名はお雪。活発な性格の私娼。

お雪の家に上がり、そこから二人の関係は始まります。
私娼というと今でいう風俗嬢ととらえて良いのでしょうか。
体を売る仕事なのかまでは詳しく書かれていないけど、
他の男を呼び込んだりしているということは、そういうことなんだろう。

大江とは風俗嬢と客、という間柄ではなくて、
なんとなくお雪の部屋へ通ってお茶飲みながら、なんとなく世間話をしているだけのようです。
近代化する東京から逃げ、大江は二人の時間を楽しみます。

別に恋人同士でもなく、愛を語り合うわけでもなく、
なんとなく二人で同じ時間を過ごす。
なんとも言えない関係が良かったです。

当時の東京市について詳しく描写されており、
恋愛ものというより当時の震災から復興し、明るさを取り戻す、
西洋化されている東京の風情と失われていく江戸の風情を同時に味わうことができました。

大正や昭和を舞台にした小説を読むたびに思いますが、
当時の人は現在のようにせっせと働いているように見えないのが気になりました。

谷崎潤一郎や川端康成など昭和の文豪の作品に登場する人々は、
金持ちから貧乏まで様々ですが、鬼のごとく働いている人物は出てこない。

あくまで小説だからだろうか。
それとも現在がおかしいのだろうか。

質素な生活でもいい、なんとなく彼らのほうが人として生きているようで、
羨ましく感じました。