時に正義は人を傷つける『廃用身』

老人介護施設の真実と高齢化社会の警鐘。
老人医療の院長である漆原は、要介護の老人とその家族、介護士の苦痛の先の無い未来に苦悩し、
麻痺で動かなくなった手足「廃用身」を切断する「Aケア」という療法を思いつく。

リハビリしても治る見込みのない手足の痛みに苦しみ、
介護する身内や介護士の肉体的、精神的苦痛もなくなる。
それどころかAケアを施した老人はボケや痴呆の改善も見られる。

確かに動かなくなったとはいえ、手足を切断するのには誰もが躊躇する。
なので、本人同意のもとで手術をする。

現役の医師だけあって、専門用語は出てくるけど、おおまかなことは理解できる。
これって本当にできることなの?
もし現実にできるなら、画期的な医療行為なのかも、と思いました。

漆原本人もAケアを実施するまでかなり慎重に考えぬいていました。
彼は正義感が強く、本気で老人医療の現在と未来について考えていました。

ただ、どこか腑に落ちない所が所々に見えました。
それは彼の強すぎる正義感です。

確かに彼の理路整然とした論理は正しく、
医師として患者だけでなく、患者の家族や病院の職員のことまで考えてくれます。
ある意味、医者の鑑といえます。

しかし正論は人を傷つけることもあります。
自分の考える正義は、他人の考える正義と違うときもあります。

実際の人間関係でもこのような経験をしたことがあるので、
このなんともいえぬもどかしさが気になり、
最後まで時間を忘れて一気に読んでしまいました。

まもなく老人がさらに年上の老人を介護する、超高齢化社会がやってきます。
というか、もう来ています。
じゃあどうすれば良いのだろう。

漆原のような強い正義感を持った医師に、現状を変えてもらうしかないのだろうか。
そもそも彼の正義は本当に正しかったのだろうか。