TJの隠れた名作『武州公秘話』

谷崎潤一郎の代表作といえば『細雪』『痴人の愛』『卍』『春琴抄』等ありますが、『武州公秘話』は今までとは違うスタイルで書かれた名作。

時は戦国時代。妙覚尼が残した『見し夜の夢』と、武州公に仕えた道阿弥の手記『道阿弥話』を引用しながら進んでいきます。
架空の物語ですが、タイミングよく「参考文献」を差し込んでくるので実際にあった話にも見えます。

最初の1ページめはいきなりガチの漢文が出てきて、目次も古文調で書かれているのでさっっぱりわからず、あーヤバイなこれと思いましたが、本編はちゃんと現代文なので安心しました(笑)
ただ登場人物の名前や呼び方が変化したり、難解な漢字も散見されたので、谷崎作品の中では読みづらい感じがしました。
特に古文漢文の所はよくわからなかったので、すっ飛ばしてしまいました。ごめんなさい。
それでもストーリーは面白いし、挿絵も味がありとても良い。

確か『文章読本』で、学生時代にかなり漢文を読み書きしたと書いてありましたが、この作品では学生時代に培ったものが発揮されているのかなと思います。

作品によって新しい書き方に挑戦するのが谷崎スタイル。
これも新たな文体を模索している姿がみてとれました。

気になるのが、戦国時代には名のある敵の武将を討ち取ったら、首を持って帰り女性が綺麗に化粧して大名に見せる風習が実際にあったのか。
戦の最中に首を切る暇がない時は、あらかじめ鼻を削いで目印にして、後で首を切っていたそうですが、このへんは本当にあった話なのか。

思春期まっさかりの武州公が、首を綺麗に洗っている女性の姿を見て衝撃を受けたのはわかりますが、自分も生首にされ弄ばれたいという性的興奮を丹念に描いています。
文体や書き方を変えてもこのへんの変態ぶりは一貫としてブレない所は、さすが谷崎先生です(笑)
しかし露骨なエロさをださず、生と死との間の言い知れぬ感情を上手く表現されています。

また昔の貴族階級の厠には蛾の羽を大量に入れておき、排泄物が見えないようにする説明がありましたが、これは『厠のいろいろ』にも書いてあり、僕も少しは谷崎文学に詳しくなってきたかなと悦に入りました。余談ですけど。

というわけで、谷崎文学の代表作にはあまり名前が上がらない本作ですが、これも他の作品と比べられないくらい名作かなと思います。