ヒトは宇宙で暮らすべきではないのか『天涯の砦』

軌道ステーション「望天」で起こった大事故。
到着していた月往還船とステーションの残骸の中で、奇跡的に生き残った生存者に待ち受けていたものは、絶望的な世界だった。

宇宙は生物にとって残酷だ。地球の軌道に出ただけで感じる「宇宙ヤバイ」。
まず減圧と酸欠で苦しむ人々の描写が、とにかくエグい。
声だけ聞こえる断末魔の叫び、男か女かわからないほど顔が膨れ上がった人々・・・。
事故直後の様子はまさに地獄絵図です。

生存者たちは空気ダクトを頼りに情報交換し、生き残りの道を探しますが、なにせここは宇宙。
壁ひとつ向こうは真空の世界なので慎重に行動し、一つ一つ難題をクリアしていきます。

ここまではサバイバルな話ですが、「壮絶な」サバイバルはここからです。
皆が一致団結すればもっと楽に助かるはずだったのに、善人のみが生き残っているとは限らない。
神様は無慈悲なもので、変な所に変な輩が生き残っていたり、極限状態ゆえにおきる人間のドロドロとした感情がむき出しになり、人間の最大の敵は人間なんだなと改めて感じさせられました。

物語の最後はこれですべて解決!よかったね!!ではなく、今後人類が解決しなければならない新たな道へと導かれます。
遠い先の話ではなく、近未来SFなので、自分の孫くらいの世代はこのような問題というか、人類が進むべき岐路に立たせられるのかなあと感じました。
このへんは著者らしい未来を感じさせる終わらせ方で良かったです。

小川一水氏の作品は「第六大陸」「老ヴォールの惑星」「フリーランチの時代」「時砂の王」「青い星まで飛んでいけ」と読んだけど、ここまで人間臭いドラマははじめてで、こんなエグい話も書ける方なんだなと、改めて引き出しの多さに驚きました。

僕の生きているうちはこんな気軽に宇宙に行ける世界はないだろうなあと思うと、少し寂しい気分になりました。
子供のころは21世紀になったら世の中は「2001年宇宙の旅」みたいになっているんだろうなと思っていましたが、現実は厳しい、というか宇宙は想像以上にヒトを拒絶しているように思えます。
「望天」のように完璧にできた建造物でも、ちょっとしたミスで大事故になるかもしれないですからね。