己の哲学を貫いた『ソクラテスの弁明・クリトン』

法廷でアテナイ市民に自己の思想を表明する『ソクラテスの弁明』と、死刑宣告を受けたソクラテスと脱獄を勧めるクリトンの対話『クリトン』。
「無知の知」で有名な古代ギリシャ哲学の父ですが、ソクラテス自身は対話を重要としていたため本を書いていません。
著者は弟子のプラトンです。
哲学書にありがちな小難しい話の展開はなく、どちらかというと文学として読めました。
自分もアテナイ市民の一人として、その場に居合わせた気分を味わえたのは、プラトンがうまく構成を練り上げたおかげです。

場所はアテナイの民衆裁判所。500人の陪審員の前でメレトスをはじめとする告発者の弁論を受け、その後の被告人ソクラテスが始める弁明から話は始まります。

「国家の信じない神々を導入し、青少年を堕落させた」として告発され、死刑を宣告されるのを知りつつも、全面的に反論します。
無罪か有罪か、刑量の投票がありますが、ほぼソクラテスの一人語りで話は続きます。

途中で死罪の可能性もあることを知りつつも、終始自分の行いの正当性について堂々と語る様は圧巻。全く逃げる気なしです。
この辺は格調高く、演劇を観ているような文体で描いたプラトンのなせる技。

自分の命を賭けても真理を追求する姿は、悪く言えば頑固。
しかし「哲学する人」の模範者にも見えました。

David_-_The_Death_of_Socrates
ソクラテスの死

かくして死刑が決定し、物語は『クリトン』へ。
理不尽な死刑判決を受けたソクラテスに友人クリトンは、脱獄を勧めます。
そもそも告発された事自体がおかしいし、逃げられるなら逃げるのが普通です。
が、「だが断る」とソクラテス。

理由は人間にとって一番大切なことは「善く生きる」こと。
善く生きるには、国家の秩序に従うこと。
つまりアテナイの市民である以上、アテナイの法律に従うこと。
仮に脱獄に成功してもどこにも歓迎されず、ソクラテスを死刑にした人の方が正しいと思われること。

以上の理由で死刑を受け入れます。うん。相当な頑固です。
この一貫して真理を追求したソクラテスは、2000年経った今でも色あせることはありません。

画像:wikipedia