ドゥルーズ---群れと結晶

人、社会を哲学する入門書『ドゥルーズ—群れと結晶』

これは僕の勝手な解釈だけど、ギリシャ哲学は道徳について、
近代哲学は神について論じていることが多い。

ギリシャ哲学は人としてどう生きるべきかを考えさせられるけど、
どこが現実離れしているような気がするし、
近代哲学は神が存在することを前提にしているので、
これもいまいちピンとこない所がある。

現代哲学はなぜか興味をもたなかったけど、
本書は現代思想、ドゥルーズの哲学の入門書として最適だと思う。

リゾーム的思考、反復、身体、顔など、
ドゥルーズだけでなく、他の哲学者の思想も交えて紹介してくれた。

「反復は発見されなくてはならぬ新しい範疇である」
というキルケゴールの言葉から始まる反復についての記述は、
なかなか読み応えがあった。

また、顔の発生についても興味深かった。
確かに顔は、人間のなかでも特殊な部位だ。
誰かを見るとき最初に見るのは当然「顔」だし、
その人の性格や人となりも「顔」を見て予想される。

後半のリトルネオ・アイオーン・結晶あたりは、
僕にはまだ早かったか、ちょっと難しかった。

哲学書は、基本的にどれも難しい。
たぶん的外れな解釈もしていると思う。
ではなぜ面白く感じるのは、
普段気にしていないものや、当たり前すぎて気づかない現象について、
あれやこれやと様々な角度から考察するところだと思う。

そのうちドゥルーズの代表作である『千のプラトー』に挑戦してみたい。

ピケティ入門 (『21世紀の資本』の読み方)

格差社会を弾劾する『ピケティ入門 (『21世紀の資本』の読み方) 』

ピケティの『21世紀の資本』の解説が読みたかったけど、
解説は全体の三分の一程度で、後は格差社会、アベノミクスの非難する内容だった。

『21世紀の資本』は要約すると、
格差社会をほっとくと拡大するので、
資産への課税強化しないと、19世紀の水準に戻るで!
という内容らしい。

頑張って業績を上げた人に見合った報酬をあげる、
というと最もだけど、その裏に「幸福の対価」が存在する、
つまり努力だけでなく運も成功には不可欠だし、
「高所得者を非難する奴はひがみ」という風潮がおかしいのもわかる。

運も実力のうち。結果が全て。
という言葉をどう捉えるかによるけど、
僕としては社内だけでなく社会的に責任の重いポジションについている人が、
それなりの報酬をもらうのは当然かなと思う。
かといって格差を縮めるには、高所得者からお金をたくさん取れば全て解決するわけではないので、
格差社会に苦しめられている僕も、色々と考えさせられた。

以前、元税務署の人が書いた本に、
今の日本は高所得者ほど所得に対する納税率が低い構造になっている、
と書いてあったので、所得よりも資産へ課税すべしといったことが、
なんとなくわかった。

正直現代社会の問題に興味がないわけではないけど、
ピケティの思想や『21世紀の資本』について、もっと掘り下げて欲しかった。

古今和歌集

四季に合わせて読みたい『古今和歌集』

やまとうたは、人の心を種として、よろづの言の葉とぞなれりける。

と仮名序にあるように、
当時の歌は、現在の歌と同様、人の心を映すものでした。
1100首という膨大な歌の中に、

春は桜を歌い、
夏はほととぎすを歌い、
秋は紅葉を歌い、
冬は雪を歌う。

恋愛の歌もたくさんあり、

あの人を想うと、夜も眠れぬ。
あの人と別れ、袖を濡らす。
あいつとあらぬ噂がたってしまう。

と、大部分が季節や恋をテーマにした歌で、
ああ昔も今も人の想うことはたいして変わらないものだなと思いました。

平安時代に編集されたもので、逢坂、竜田川、吉野と場所を読む歌もあり、
先日読んだ谷崎潤一郎『吉野葛』を思い出しました。

枕詞や接頭語など文法や歌の解釈の説明も充実しており、
一回読んだだけではもったいない感じがしました。
ふとした時に気になったページを読み返すと良さそうです。

春には春歌を。
夏には夏歌を。
秋には秋歌を。
冬には冬歌を。

と言った具合に。

「ない仕事」の作り方

実は普通の人だった『「ない仕事」の作り方』

以前テレビで「趣味はエロ本のお気に入りのページをスクラップすること」
とキモ…いや珍しい趣味を持っている人だなあと思い、
そもそもみうらじゅんって何してる人なんだ?と思って読みました。

一応メインはイラストレーターだそうで、
あとはコラムを書いたりイベントをプロデュースしたり、
独特な仕事をしています。

タイトル通り「ない仕事」をいかにつくるかが本題ですが、
自身を「ひとり電通」と名乗る通り、
接客から広報、アイデア出しと本当にひとりでやっているそうです。

少年時代に書いた学級新聞やスクラップを見ると、
早くからその才能を発揮しているようで、
でも駆け出しの苦労話や接客の方法、仕事がなくなる恐怖心についても書かれており、
ああこの人も普通の人なんだなあと感じました。

自分が面白く感じたものを追求し発信していった結果、
仕事になるのはわかるけど、多くの人はどこかで辞めてしまうと思います。
みうらさんの本当に凄いところは、
才能だけでなく辞めない所であり、
辞めないことがいかに大事かを改めて痛感しました。

全国を巡って見たり集めたりしている所をみると、
かなり「初期投資」をしているようですが、
個人事業ゆえの葛藤を感じながら、ああ面白いと自分を洗脳し、仕事を生み出す。
ゆるくやっているようで、実はかなり考え、悩んでいる。
そんな側面をみることができました。

現代詩人探偵

創作の本質を考える『現代詩人探偵』

趣味で詩を書いていますというと、
ちょっと敬遠されがち。

そんな社会的に微妙な立ち位置である詩を愛し、
詩を書いて生活したい人たちの物語。
SNSで知り合った詩人の卵たちは、10年後再会する約束をしていたけど、
半数が自殺しており、主人公の「探偵」がその謎を追うミステリーです。

最近ではtwitterで発表している詩を読むのが好きで、
少ない文字数で人を感動させたり、考えさせられることができる人が、
とても羨ましく感じます。

詩に限らず、創作活動をすること自体、なかなか神経を擦り減らす作業です。
詩によって死んでしまう彼らと主人公の気持ちには胸を打たれました。

また、ある人の詩が他の詩人に触発され、別の人の作品となるところは、
「詩は誰のものか」
という創作活動自体の問いにもつながります。
デザイン、イラスト、キャッチコピー、写真、映像など、
おおよそのクリエイティブな創作は、必ず先人の影響を受けるわけで、
じゃあオリジナルは誰のものか。
もちろんオリジナルを制作した人のものだけど、
長い年月が経つといろんな人の作品の影響を受けた作品が生み出され、
どこまでがオリジナルか、その境界線が薄れるわけで、
本編とずれてしまうけど、創作活動そのものについて、考えさせられる物語でした。

文章は句読点がとても多く、正直読みづらかったです。
でもそこに主人公の葛藤を描写しているようで、そう思うと上手い書き方だなと思います。

著者は初のミステリーのようで、あとがきにも書き上げることにかなり苦労したそうです。
著者自身も命を削って物書きをしている、そんな気がしてなりませんでした。

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論理的な幸せをお裾分け『詩羽のいる街』

どこにでもある街に住む人たちを少し幸せにして生活する詩羽。
ちょっと強引で押し付けがましいところがあるけど、
ほどよい距離もとってくれる。

地域のちょっとした需要と供給を上手く繋げて、
お金も部屋も持たず生活する彼女。

その小さな幸せが積み重なって、最後は大きな幸せになります。
このまま自分もどこかに連れて行かれている気分で、
一気に読んでしまいました。

特に第3話に出てくる、ひねくれたおっさんの話が好きでした。
歳も近いからかな。

ただ詩羽経由で著者の主張が見られるので、好みが分かれるかなと思いました。
『アイの物語』でもそうでしたが、僕の心の片隅で「みんなこう言っているけどどうなん?」
といった少しの疑問や、こんな気持ちわかるなあといった、
言葉にできなかった気持ちをさらっと書いてくれる所が好きです。

論理的な考えで人を幸せにする詩羽。
ぐいぐい引っ張ってくる子なので好き嫌いが分かれそうですが、
仕方なくついて行けば別に悪いことはないと思います。

最近やさぐれたなあと感じたら、
読み返すといい気分になれると思います。

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戦乱を生きた盲人が語る『盲目物語』

かつては近江の国は名将、浅井長政が治め、
織田信長の妹、お市の方が政略結婚として嫁いだ国でもあります。

そこに使える盲人が語り部として、
当時の戦国時代を語る物語です。

滋賀県の長浜周辺が舞台の中心で、
現在は少し寂しさを感じる地方都市ですが、
一時期は時代を左右する戦が幾度となくあり、
織田信長が天下を狙う足がかりの地でもあります。

このかつては歴史を変える舞台で、
今は静かな場所になった感じは『吉野葛』と共通するところで、
この二編が一冊の本にしてあるのも合点がいくわけです。

特に戦乱に翻弄されるお市の方が不憫。
はかなくとも強く生きようとする姿が盲人により語られていました。
他にも名のある武将が次々と話しに出てきますが、
とにかくお市の方の生き様が悲劇的でした。

また全体的にひらがなで書かれていて、段落も少ない。
このあたりが「語っている」感を出していて、
谷崎潤一郎の新たな演出も垣間見えました。

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南北朝の名残を遺す『吉野葛』

吉野というと奈良県のどこか真ん中あたり?
うっそうとした山々があるところ、くらいしか僕にはなかったのですが、
『吉野葛』はそこが舞台。

日本の歴史の中では南北朝時代という、
朝廷が2分する珍しい時期があり、吉野はその南朝の拠点となりましたが、
南朝の衰退により南北朝は統一。
吉野は歴史の表舞台から姿を消します。

以降は昔ながらの風景が生き続け、
昔ながらの良き日本の姿が書き綴られています。

小説というより、エッセイでしょうか。
途中で古文が引用されたり手紙に書かれていたりで、
僕には読みづらい箇所もありました。
この頃に『盲目物語』『武州公秘話』を発表するなど、
歴史をベースにした作品を書き上げています。

秋の吉野を舞台に、母への想いを馳せる所は、
派手な内容ではないけど、いかにも日本的な作品でした。
『母を恋ふる記』は幻想的な世界、『吉野葛』は地味(いい意味で)な世界、
といったところでしょうか。

吉野へは行ったことないですが、
調べるとこんもりとした山が聳え立つところで、
海よりも山派の僕には好みの場所でした。

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男女関係は面倒くさい『蓼食う虫』

『異端者の悲しみ』は、谷崎潤一郎自身の学生時代をベースにした短編。
こちらは離婚するまでの経験を元に書き上げた話のようです。

結婚は簡単だけど、離婚は大変。
という言葉を耳にするけど、谷崎作品にしては感情の抑揚が薄く、
途中で地唄や浄瑠璃のくだりもあって、珍しく味わえない作品に感じました。

『春琴抄』『痴人の愛』『卍』にあるような、
恋とも愛とも言えないような想いもなく、
かといって支配欲、女性崇拝といった著者らしい作品の箇所も少ないです。

ただどちらが離婚を切り出すか。
言う方になるか言われる方になるか、お互いがグダグダになる感じが続き、
ある意味離婚するときってこうなるのかなあと思うと、
改めて離婚の大変さを実感するわけでした。

主人公の要も妻の間男の存在を容認しているし、
セックスレスが原因と紹介文にはあるけど、
それだけではないような気もしました。

むしろ義父の妾であるお久に対して、
要はなんらかの感情があるような気がしてなりませんでした。
所々にお久に対する要の心理描写があるので、
ああこの二人は最後に・・・と思っていましたが、
なんにもありませんでした(笑)

夫婦に限らず恋人同士でも、別れる際はどちらかが切り出さないといけない。
言われる方も傷つくけど、言うほうもそれなりにしんどい。

いつの時代も男女関係は面倒なのでした。