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論理的な幸せをお裾分け『詩羽のいる街』

どこにでもある街に住む人たちを少し幸せにして生活する詩羽。
ちょっと強引で押し付けがましいところがあるけど、
ほどよい距離もとってくれる。

地域のちょっとした需要と供給を上手く繋げて、
お金も部屋も持たず生活する彼女。

その小さな幸せが積み重なって、最後は大きな幸せになります。
このまま自分もどこかに連れて行かれている気分で、
一気に読んでしまいました。

特に第3話に出てくる、ひねくれたおっさんの話が好きでした。
歳も近いからかな。

ただ詩羽経由で著者の主張が見られるので、好みが分かれるかなと思いました。
『アイの物語』でもそうでしたが、僕の心の片隅で「みんなこう言っているけどどうなん?」
といった少しの疑問や、こんな気持ちわかるなあといった、
言葉にできなかった気持ちをさらっと書いてくれる所が好きです。

論理的な考えで人を幸せにする詩羽。
ぐいぐい引っ張ってくる子なので好き嫌いが分かれそうですが、
仕方なくついて行けば別に悪いことはないと思います。

最近やさぐれたなあと感じたら、
読み返すといい気分になれると思います。

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戦乱を生きた盲人が語る『盲目物語』

かつては近江の国は名将、浅井長政が治め、
織田信長の妹、お市の方が政略結婚として嫁いだ国でもあります。

そこに使える盲人が語り部として、
当時の戦国時代を語る物語です。

滋賀県の長浜周辺が舞台の中心で、
現在は少し寂しさを感じる地方都市ですが、
一時期は時代を左右する戦が幾度となくあり、
織田信長が天下を狙う足がかりの地でもあります。

このかつては歴史を変える舞台で、
今は静かな場所になった感じは『吉野葛』と共通するところで、
この二編が一冊の本にしてあるのも合点がいくわけです。

特に戦乱に翻弄されるお市の方が不憫。
はかなくとも強く生きようとする姿が盲人により語られていました。
他にも名のある武将が次々と話しに出てきますが、
とにかくお市の方の生き様が悲劇的でした。

また全体的にひらがなで書かれていて、段落も少ない。
このあたりが「語っている」感を出していて、
谷崎潤一郎の新たな演出も垣間見えました。

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南北朝の名残を遺す『吉野葛』

吉野というと奈良県のどこか真ん中あたり?
うっそうとした山々があるところ、くらいしか僕にはなかったのですが、
『吉野葛』はそこが舞台。

日本の歴史の中では南北朝時代という、
朝廷が2分する珍しい時期があり、吉野はその南朝の拠点となりましたが、
南朝の衰退により南北朝は統一。
吉野は歴史の表舞台から姿を消します。

以降は昔ながらの風景が生き続け、
昔ながらの良き日本の姿が書き綴られています。

小説というより、エッセイでしょうか。
途中で古文が引用されたり手紙に書かれていたりで、
僕には読みづらい箇所もありました。
この頃に『盲目物語』『武州公秘話』を発表するなど、
歴史をベースにした作品を書き上げています。

秋の吉野を舞台に、母への想いを馳せる所は、
派手な内容ではないけど、いかにも日本的な作品でした。
『母を恋ふる記』は幻想的な世界、『吉野葛』は地味(いい意味で)な世界、
といったところでしょうか。

吉野へは行ったことないですが、
調べるとこんもりとした山が聳え立つところで、
海よりも山派の僕には好みの場所でした。

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男女関係は面倒くさい『蓼食う虫』

『異端者の悲しみ』は、谷崎潤一郎自身の学生時代をベースにした短編。
こちらは離婚するまでの経験を元に書き上げた話のようです。

結婚は簡単だけど、離婚は大変。
という言葉を耳にするけど、谷崎作品にしては感情の抑揚が薄く、
途中で地唄や浄瑠璃のくだりもあって、珍しく味わえない作品に感じました。

『春琴抄』『痴人の愛』『卍』にあるような、
恋とも愛とも言えないような想いもなく、
かといって支配欲、女性崇拝といった著者らしい作品の箇所も少ないです。

ただどちらが離婚を切り出すか。
言う方になるか言われる方になるか、お互いがグダグダになる感じが続き、
ある意味離婚するときってこうなるのかなあと思うと、
改めて離婚の大変さを実感するわけでした。

主人公の要も妻の間男の存在を容認しているし、
セックスレスが原因と紹介文にはあるけど、
それだけではないような気もしました。

むしろ義父の妾であるお久に対して、
要はなんらかの感情があるような気がしてなりませんでした。
所々にお久に対する要の心理描写があるので、
ああこの二人は最後に・・・と思っていましたが、
なんにもありませんでした(笑)

夫婦に限らず恋人同士でも、別れる際はどちらかが切り出さないといけない。
言われる方も傷つくけど、言うほうもそれなりにしんどい。

いつの時代も男女関係は面倒なのでした。

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サイトは墓標である『故人サイト』

○○のホームページへようこそ!
といった昔流行ったサイトを見るのが僕は好きで、
特に何年も放置された掲示板、アクセスカウンター、裏サイトの入口などあると、
懐かしさや哀愁を感じます。

本書は亡くなった人が管理していたサイトを紹介する珍しい本。
ある日不慮の事故や事件で亡くなった人、不治の病と闘った人、人生に絶望し自殺を選んだ人等、様々な方がいます。

一時期ネットだけでなくテレビでも話題になった人から、アクセスも少なそうな無名のブロガーまで厳選したそうで、
ひとつひとつ丁寧にリサーチし、故人を弔うようにサイトを考察する著者の素晴らしさも感じ取れました。

僕も一応サイトを持っているけど、
そもそも何故人はブログやtwitterなどのSNSで記録を残そうとするのだろう。

きっと誰かに自分は生きていたんだと知って欲しいのだと思います。

デジタルの世界というと無味乾燥としたイメージが強いけど、
その向こうには生きている人、生きていた人が必ず存在する。

0と1でできたデータだけど、
ネットを使っているのは紛れもなく人間である限り、
そこには人の込めた想いがあるわけで、
思わず手を合わせたくなるような寂しさを感じました。

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ガンコオヤジの愛のある説教『読書について』

本書は思索、著作と文体、読書についての三部からなっています。
どれだけ読書を重ねて知識を得ても、自分で考えなければ何も価値を生み出せないという、
ショーペンハウアーの主張が貫かれています。

昨今の出回っている悪書を叩き、さらにはヘーゲルをエセ哲学者とこき下ろしています。
(大丈夫なんですかねコレ。。。)
しかし叩いて終わりではなく、書き手と読み手がどうあるべきかわかり易く説明し、
時には厳しく叱責する様は、ドイツ版「波平」といったところでしょうか。

自分で考え抜くというのは、思ったより難しい活動だと思います。
現在では知らないこと、わからないことがあるとググレksと言われる世の中だけど、
ショーペンハウアーがいたらお前のアタマで考えろksとゲンコツがとんでくるのでしょうか。

なんのために読書をするのか。
知識を得て自分は何をしたいか。
道に迷ったら先生に愛の説教が欲しい人へ。
もう一度本書を手にしたいと思いました。

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前向きになれる手紙『デザイナーとして起業した(い)君へ。』

タイトルが秀逸で、デザイン本であり、起業する人への本であり、自己啓発でもあります。
著者のDavid Aireyはフリーのデザイナーで、
主に企業のブランディングを仕事にしているようですが、
翻訳も優秀なためか、とても読みやすかったです。

独立するにあたって何が必要か、どのような心構えで仕事に向き合うか、
国は違えど根本の考えは同じだと思いました。
クライアントと請負側の関係は、海外でもなかなかシビアであり、
あーこんなことあったような・・・と耳が痛くなるエピソードもありました。

またお互いが不幸な結果にならないためには、何をすれば良いか、
最高の結果になるには僕は何をすべきかなど、社員だろうとフリーだろうと関係なく、
必要な心構えが勉強になりました。

著者は国をまたいで活躍するデザイナーですが、
やはり苦悩するところは同じで、
また、センスや技術、ノウハウはともかく、一番大事なのは、
プロとしての意識が一番大切なんだなあと痛感しました。

社名の決め方や自身の健康管理、クライアントの獲得法など、
日本でも通用する考え方が満載でした。
特に自分が気になっていた実績の掲載は勉強になりました。
プロボノ活動を通して実績やスキルを積むのは、今後実践してみる価値ありそうです。

最後のほうの自身のブログ運営は賛成ですが、
アフィリエイトや広告バナー関連での副収入は、少し情報が古い感じがしました。
また、本の出版も僕も考えていたけど、
昨今の出版業界の低迷を見ると難しいかなと思いました。
自身のアピールにはつながるし、良い経験にはなりそうですが。

全体として、これから旅立つ読者へのエールが感じられました。
久しぶりに素敵な手紙をもらった、そんな気分でした。

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つまり自分の肩書きは

職業を聞かれると答えに窮することがある。

一応デザイン関係の仕事しています、web関係の仕事しています、
ディレクション関係の仕事しています。
と答えているけど、「〜関係の仕事」と少し濁らせている。

だったらはっきりとデザイナーです!プログラマーです!
ディレクターです!と言えば良いのだが、
どれもしっくりこない。

たまに海外のサイトでJapanese coderとか、
Japanese artistとかいう肩書きで紹介されたことがあるけど、
嬉しいような恥ずかしいような、そんな気分になった。

デザインするときもあれば、プログラミングするときもある。
じゃあ、デザイナー・プログラマーとすれば良いかもしれないが、
どちらも本職でやっている人には勝てないような気がするので、
これも違う。

インタラクティブなコンテンツを作るのが好きで、
将来はwebだけでなく、映像だったり、
聞いて触って体験できるインスタレーション作品を作ってみたいので、
インタラクティブデザイナーが良いのだろうか。

でもそこまで名乗って良いのだろうか。
世の中言った者勝ちでいいのか。
そもそも自分は何をやってきたのだろうか。

悩みはつきないのである。

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ミクロの世界を知る『小さい宇宙をつくる』

『小さい宇宙をつくる』とありますが、
別にCERNで人工で宇宙やブラックホールをつくる話ではなく、
素粒子物理学をわかりやすく解説してくれる本です。

物理を専攻しときながら素粒子についてイマイチ理解できなかったのですが、
本当に噛み砕いて教えてくれたので、理科が苦手な人にもおすすめです。

何気にゆるいイラストがわかりやすく、
原子の中に原子核と電子があり、原子核の中に陽子と中性子があり、
陽子と中性子の中にアップクォーク、ダウンクォークというクォークがある。

アップクォークとダウンクォークは、
グルーオンを「キャッチボール」しながら力を伝えている等、
例えも上手でした。

また電磁気力は光子が流れて力が働くこともわかり、
電子と光子の区別もよくわからなかったもやもや感を解消してくれました。

あとは話題になったビッグス粒子について、
宇宙誕生から38万年までは陽子や電子が安定せず、光が直進できないため観測できない、
いわゆる宇宙の晴れ上がりについても説明があり、
薄くて簡潔ながらも素粒子の入門書としては最適かと思いました。

ミクロの世界を知ることは、宇宙を知ることになる。
僕が宇宙が好きな理由はこの矛盾感(?)がなんとも言えず好きで、
その奥の深さに魅かれるときは、抱えている悩みなど、どーでもよくなるわけです。

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会計はつまらなくはない『会計の基本』

果たして会計は地味でつまらない仕事なのだろうか?
本書は会計の具体例をもとに初歩から説明してくれました。

貸借対照表や損益計算書など聞いたことある用語やキャッシュフローの概念についてなんとなくわかりました。
特に借方、貸方といった会計の公式は面白く、なんとなく家の会計と企業の会計を一緒に考えがちな僕にとって、会社のお金がどう動いているのか知ることができました。

しかしこれで会計の基本が身につくわけではなく、簿記や財務の触りを紹介する程度です。
それくらい会計は奥が深い。
会計学という学問と言ってもよいかなと思いました。

経済学は最初は全くわからなかったので、会計学もこれから何冊か挑戦しようと思います。