複雑系入門

世の中は複雑「系」である『複雑系入門―知のフロンティアへの冒険 』

明日の天気は分からないし、植物がどう成長するか分からない。
蝶々が羽ばたけは、ハリケーンが起きるかもしれない。

自然や社会、人体など、世の中は予測不能なカオスであり、この動的な現象を科学するのが複雑系である。

本書は複雑系の入門書という位置づけで、様々な複雑系を実例を通して紹介してくれる。

またそもそも複雑系とはなんぞやと、初学者が誤解しないように丁寧に説明してある。

特にフラクタル、セル・オートマトン、人工知能は興味あったので面白かった。

お艶殺し

後の名作を思わせる『お艶殺し』

女は名家の一人娘、お艶。
男は奉公人、新助。
二人はある夜駆け落ちし、江戸を転々し、
新助だけでなく、関わる男たちがお艶の魅力にハマる。

この時点で『春琴抄』『痴人の愛』を思わせる谷崎文学の鉄板設定で、
久しぶりに楽しめた。

江戸っ子らしいべらんめぇ口調が雰囲気を醸し出し、
位の差を乗り越えようとする二人の純愛を描くと思いきや、
どんどんやばい展開に進む。

優男の新助。男勝りのお艶。
昼ドラもビックリの展開が続くけど、
二人の落ちていく運命は、あれ悲しいという思いで終わらせるのではなく、
美しい物語で終わっている。

ハーバードのエリートは、なぜプレッシャーに強いのか?

人間性を鍛える道場だった『ハーバードのエリートは、なぜプレッシャーに強いのか? 』

ハーバードビジネススクールは自分にとって無縁な所で、今後も無関係だろう。
しかしエリートたちの華やかな姿の裏にある、悩みや努力が垣間見えた。

内容はタイトルと少し違う気がしたけど、
自信に溢れた(ように見せている)トップのビジネスマンも不安でいっぱいで、実は心を許せる友人を欲しているようだ。
そう思うと、スーツでビシッと決めた意識高い系エリートも、悩みは自分と同じ。

実際に会う、話しをよく聞く、人の繋がりを大切にする、そして自分の夢を語る。
基本的なことだけどいかに難しく、大事なことを勉強できた。

神のゴミ箱

ゴミから繋がる物語『神のゴミ箱』

このアパートの住人のゴミは、どうやら自分のゴミ箱に転送されているらしい。

ごく普通のアパートの、普通じゃない住人の話。
主人公、神のゴミ箱に転送されるごみは痛々しいポエムだったり女子中学生の離婚した父の居場所だったり。
そこから始まる人間関係が楽しみで読み進めた。

しかしポエムの主で二階の比内と、二つ隣の木鳥と神の三角関係がメインになってしまい、ちょっと残念だった。
あとがきに続編があるようなことが書かれていたので、掘り下げられていなかった他の住人にもスポットがあたるのかな。

それにしても著者のうだるような夏、ダラダラとした心理描写が好きで、今回も期待通り楽しめた。

いやこれ続編書いて欲しい。

玩具修理者

永遠のテーマを投げかける『玩具修理者』

生命とは何か。時間とは何か。精神とは何か。
科学では未だに説明できていないテーマを表題の『玩具修理者』、
『酔歩する男』で語られている。

『玩具修理者』は描写がとにかくグロい。
チェーンソーで八つ裂きにするような西洋的なホラーと、
心の内から感じる日本的なホラーを混ぜたような感じ。
ただ気持ち悪い、で終わらせるのではなく、
そもそも生命とは何か、生物と無生物の境界線は何かを
考えさせられた。

『酔歩する男』はタイムトラベルし続ける男の、数奇な話。
パラレルワールドとか過去や未来へ行く物語は読んだことあるけど、
ここまでそもそも時間とは何かと考えることはなかった。

時間は連続であり、一方にしか進まず、
未来に行ける可能性はあるかもしれないが、
過去に行くことはできない。
何故なら過去へ行けたら現在の事象が変化するから。

でも本当にそうなのだろうか。
物理的には時間を行き来できなくても、
精神だけ移動できるかもしれない。
じゃあ精神とは何だろうか。
と、哲学的な意義を問われ、良い意味で「気持ち悪く」なった。

2作品とも、境界線を特に誰かに聞くわけではなく、
自分でもたいして考えるわけでもない所に焦点を当てている。

日常生活で気にも留めない「当たり前」を当たり前ではない感覚にさせ、
さらにそこをゴリゴリえぐられる、そんな気分になりました。

ドゥルーズ---群れと結晶

人、社会を哲学する入門書『ドゥルーズ—群れと結晶』

これは僕の勝手な解釈だけど、ギリシャ哲学は道徳について、
近代哲学は神について論じていることが多い。

ギリシャ哲学は人としてどう生きるべきかを考えさせられるけど、
どこが現実離れしているような気がするし、
近代哲学は神が存在することを前提にしているので、
これもいまいちピンとこない所がある。

現代哲学はなぜか興味をもたなかったけど、
本書は現代思想、ドゥルーズの哲学の入門書として最適だと思う。

リゾーム的思考、反復、身体、顔など、
ドゥルーズだけでなく、他の哲学者の思想も交えて紹介してくれた。

「反復は発見されなくてはならぬ新しい範疇である」
というキルケゴールの言葉から始まる反復についての記述は、
なかなか読み応えがあった。

また、顔の発生についても興味深かった。
確かに顔は、人間のなかでも特殊な部位だ。
誰かを見るとき最初に見るのは当然「顔」だし、
その人の性格や人となりも「顔」を見て予想される。

後半のリトルネオ・アイオーン・結晶あたりは、
僕にはまだ早かったか、ちょっと難しかった。

哲学書は、基本的にどれも難しい。
たぶん的外れな解釈もしていると思う。
ではなぜ面白く感じるのは、
普段気にしていないものや、当たり前すぎて気づかない現象について、
あれやこれやと様々な角度から考察するところだと思う。

そのうちドゥルーズの代表作である『千のプラトー』に挑戦してみたい。

ピケティ入門 (『21世紀の資本』の読み方)

格差社会を弾劾する『ピケティ入門 (『21世紀の資本』の読み方) 』

ピケティの『21世紀の資本』の解説が読みたかったけど、
解説は全体の三分の一程度で、後は格差社会、アベノミクスの非難する内容だった。

『21世紀の資本』は要約すると、
格差社会をほっとくと拡大するので、
資産への課税強化しないと、19世紀の水準に戻るで!
という内容らしい。

頑張って業績を上げた人に見合った報酬をあげる、
というと最もだけど、その裏に「幸福の対価」が存在する、
つまり努力だけでなく運も成功には不可欠だし、
「高所得者を非難する奴はひがみ」という風潮がおかしいのもわかる。

運も実力のうち。結果が全て。
という言葉をどう捉えるかによるけど、
僕としては社内だけでなく社会的に責任の重いポジションについている人が、
それなりの報酬をもらうのは当然かなと思う。
かといって格差を縮めるには、高所得者からお金をたくさん取れば全て解決するわけではないので、
格差社会に苦しめられている僕も、色々と考えさせられた。

以前、元税務署の人が書いた本に、
今の日本は高所得者ほど所得に対する納税率が低い構造になっている、
と書いてあったので、所得よりも資産へ課税すべしといったことが、
なんとなくわかった。

正直現代社会の問題に興味がないわけではないけど、
ピケティの思想や『21世紀の資本』について、もっと掘り下げて欲しかった。

古今和歌集

四季に合わせて読みたい『古今和歌集』

やまとうたは、人の心を種として、よろづの言の葉とぞなれりける。

と仮名序にあるように、
当時の歌は、現在の歌と同様、人の心を映すものでした。
1100首という膨大な歌の中に、

春は桜を歌い、
夏はほととぎすを歌い、
秋は紅葉を歌い、
冬は雪を歌う。

恋愛の歌もたくさんあり、

あの人を想うと、夜も眠れぬ。
あの人と別れ、袖を濡らす。
あいつとあらぬ噂がたってしまう。

と、大部分が季節や恋をテーマにした歌で、
ああ昔も今も人の想うことはたいして変わらないものだなと思いました。

平安時代に編集されたもので、逢坂、竜田川、吉野と場所を読む歌もあり、
先日読んだ谷崎潤一郎『吉野葛』を思い出しました。

枕詞や接頭語など文法や歌の解釈の説明も充実しており、
一回読んだだけではもったいない感じがしました。
ふとした時に気になったページを読み返すと良さそうです。

春には春歌を。
夏には夏歌を。
秋には秋歌を。
冬には冬歌を。

と言った具合に。

「ない仕事」の作り方

実は普通の人だった『「ない仕事」の作り方』

以前テレビで「趣味はエロ本のお気に入りのページをスクラップすること」
とキモ…いや珍しい趣味を持っている人だなあと思い、
そもそもみうらじゅんって何してる人なんだ?と思って読みました。

一応メインはイラストレーターだそうで、
あとはコラムを書いたりイベントをプロデュースしたり、
独特な仕事をしています。

タイトル通り「ない仕事」をいかにつくるかが本題ですが、
自身を「ひとり電通」と名乗る通り、
接客から広報、アイデア出しと本当にひとりでやっているそうです。

少年時代に書いた学級新聞やスクラップを見ると、
早くからその才能を発揮しているようで、
でも駆け出しの苦労話や接客の方法、仕事がなくなる恐怖心についても書かれており、
ああこの人も普通の人なんだなあと感じました。

自分が面白く感じたものを追求し発信していった結果、
仕事になるのはわかるけど、多くの人はどこかで辞めてしまうと思います。
みうらさんの本当に凄いところは、
才能だけでなく辞めない所であり、
辞めないことがいかに大事かを改めて痛感しました。

全国を巡って見たり集めたりしている所をみると、
かなり「初期投資」をしているようですが、
個人事業ゆえの葛藤を感じながら、ああ面白いと自分を洗脳し、仕事を生み出す。
ゆるくやっているようで、実はかなり考え、悩んでいる。
そんな側面をみることができました。

現代詩人探偵

創作の本質を考える『現代詩人探偵』

趣味で詩を書いていますというと、
ちょっと敬遠されがち。

そんな社会的に微妙な立ち位置である詩を愛し、
詩を書いて生活したい人たちの物語。
SNSで知り合った詩人の卵たちは、10年後再会する約束をしていたけど、
半数が自殺しており、主人公の「探偵」がその謎を追うミステリーです。

最近ではtwitterで発表している詩を読むのが好きで、
少ない文字数で人を感動させたり、考えさせられることができる人が、
とても羨ましく感じます。

詩に限らず、創作活動をすること自体、なかなか神経を擦り減らす作業です。
詩によって死んでしまう彼らと主人公の気持ちには胸を打たれました。

また、ある人の詩が他の詩人に触発され、別の人の作品となるところは、
「詩は誰のものか」
という創作活動自体の問いにもつながります。
デザイン、イラスト、キャッチコピー、写真、映像など、
おおよそのクリエイティブな創作は、必ず先人の影響を受けるわけで、
じゃあオリジナルは誰のものか。
もちろんオリジナルを制作した人のものだけど、
長い年月が経つといろんな人の作品の影響を受けた作品が生み出され、
どこまでがオリジナルか、その境界線が薄れるわけで、
本編とずれてしまうけど、創作活動そのものについて、考えさせられる物語でした。

文章は句読点がとても多く、正直読みづらかったです。
でもそこに主人公の葛藤を描写しているようで、そう思うと上手い書き方だなと思います。

著者は初のミステリーのようで、あとがきにも書き上げることにかなり苦労したそうです。
著者自身も命を削って物書きをしている、そんな気がしてなりませんでした。